欧州リウマチ学会に参加して
欧州リウマチ学会について報告文書を依頼されたので、ここにも掲載しておきます。
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欧州リウマチ学会に参加して
この度私はイタリアのローマでおこなわれました欧州リウマチ学会(EULAR)に参加いたしました。そこで得られた知見を報告致します。
私が専攻する免疫内科学で扱う代表的疾患に関節リウマチ、各種膠原病があります。特に関節リウマチの治療の進歩はめざましく、生物学的製剤の登場により治癒できる疾患へとかわってきています。日本においても8年前に生物学的製剤が導入され、現在では複数の薬剤が使用できるようになりました。しかし海外と比較するとその数は少なく導入が遅れているのが現状です。欧州では最近日本でも承認されたAbatacept、まだ承認されていないGolimumabなどの新規生物製剤に関する臨床効果や安全性のデータがたくさん出ており、今後日本に導入されたときの参考になるデータを収集することができました。
また、欧米に特徴的なこととしてコストを勘案した治療を目指す考え方が印象に残りました。日本でも医療費の高騰は大きな問題になっています。特に皆保険制度のもとでは高額な医療は医療費を圧迫する原因となります。生物学的製剤は高価な薬剤であり、積極的に用いることは身体にとってよい結果をもたらす一方で、患者さんの経済的な負担が増えるだけでなく国の医療経済を圧迫します。本学会でも生物学的製剤治療には臨床効果とともにコストに見合ったものかどうかが数多くの研究で検討されていました。寛解に至った場合に薬剤を減量できるかどうか検討した研究もあり、患者さんの身体的・経済的負担の面でも医療経済の面でも重要なメッセージだと思います。日本の発表でも薬剤中止に関して素晴らしいデータが出ておりコストを勘案したベストな治療を目指すことがわが国でも現実的になっています。それを強く実感することができました。
その他、新たな知見としては2009年に発表された関節リウマチ新分類基準の予後予測精度についての調査発表がありました。スコアリングシステムによる分類の妥当性が評価され予後予測精度が高いことが実証されました。この分類基準の信頼性を支持したものであり、今後日本においてもこれを軸として導入されていくものと思われます。
関節リウマチ以外のリウマチ性疾患についてもいくつか新しい発表がなされていました。強直性脊椎炎に対するInfliximabにMTX併用不要、ベーチェット病眼発作にInfliximabがステロイドよりも有効など、やはり生物学的製剤に関する話題が多い印象を受けました。症例数が少ないだけに一つ一つの報告が貴重であり、生物学的製剤の効果により病態解明に生かせるヒントになり有意義でした。
進歩が著しい関節リウマチに比べて膠原病領域の発表は少なかったです。関節リウマチと違って治療薬に大きな変化がなく病態も明らかではありません。生物学的製剤に関しても治療成績がいくつか報告されていますが、残念ながら関節リウマチには及ばないようです。これは膠原病がもっと複合的な免疫異常に起因しているためであると推察できます。そこで基礎免疫的な研究が必要になってきます。私の演題も、自然免疫系に重要な単球と獲得免疫系で注目されてきている新しいサブセットであるTh17との関わりを示したもので複雑な病態の解明の一助になるものと考えています。生物学的製剤はターゲットが限定されており効果が実証されることで、複雑な免疫ネットワークの中における病因を絞り込むことができます。基礎免疫からのアプローチと臨床現場における効果の両面で病態が明らかにされていくことを期待し自らもその一助となるよう研究を続けます。
年々大きな進歩をとげているリウマチ・膠原病学。日本での臨床に還元できるよう最新の臨床データを得られたこと、医療経済を深く考えさせられたこと、基礎免疫学的なアプローチと臨床アプローチの両面が大切なこと、これらが本学会で強く印象に残ったことです。これらのことを今後の研究・臨床に生かしてまいります。
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